黎明期のUL文化を伝えるポンチョ、SEA TO SUMMIT の ULTRA SIL NANO PONCHO

黎明期のUL文化を伝えるポンチョ、SEA TO SUMMIT の ULTRA SIL NANO PONCHO
nanoponcho

雨具としてもタープとしてもシェルターとしても使えるポンチョは、ひとつの道具に複数の機能をもたせて荷物を減らすUL的発想を象徴するアイテムです。

今でも Six Moon Designs の Gatewood Cape などは、雨具とシェルターを兼ねたものの定番として親しまれています。2000年代後半の Hiker’s Depot でも、ポンチョは肩肘はらずに携帯して使えるギアとして多くのお客さんに支持されていました。さらに2000年代中頃にまで時代をさかのぼると、日本人が手探りでULの試行錯誤をしていた当時、重量とコストの面からみてもポンチョにはアドバンテージがあったのです。

※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

たとえば、よく晴れたハイキング日和に、高尾や奥多摩に3~4時間ほどのデイハイクにむかうとしましょう。そんな時でも、いざという時の雨対策は必須ですが、はたしてハイスペックで高価な防水透湿素材のシェルジャケットは必要でしょうか。行動時間や森林限界下という山の環境を考えれば、軽量シンプルで安価なポンチョでも、雨対策としては必要充分といえるはず。

より古い文献をあたると、山と渓谷社から1978年に刊行された『登山教室』も、ポンチョを「風のない低山ならば便利に使える」と紹介しています。ようは雨具もTPOで考えれば良いのです。ポンチョは、そんなふうに雨具に関する意識をフラットにもどしてくれる、実にULらしい商品といえるでしょう。

丈の短いポンチョの盛衰

とはいえ、実際に着てみた人ならわかると思いますが、ポンチョは雨具としての実用性が低いという指摘もありました。アメリカの背の高い人ならまだしも、身長164cmの自分のように小さめの体格だと、通常のポンチョを着てしまうと足元が見えにくかったりします。そこで、当時 Integral Designs というブランドが発売していた、Silcoat Cape という丈の短い132gのモデルを愛用していました。

短いポンチョはコンパクトなぶんタープがわりには使えないものの、足元も見えやすく、手軽に脱ぎ着できる道具です。ザックを背負ったままかぶればザックカバーの代わりにもなります。なによりも150g以下の雨具は、2000年代の基準では非常に軽かった。当時はこの道具に可能性を感じて日本でもテストし、JMTもこれで歩きました。

このように、ポンチョは小さな日本のコミュニティで使われはじめた道具ではあったものの、軽量性や値段の安さを考えると、その魅力が一般の人にも伝わる可能性を感じていました。実際に、そこに目をつけた日本のメーカーである ISUKA が、Ingegral Designs をオマージュしたモデルを発売していた時期もあります。

しかし、さまざまな道具の軽量化が進んだいまや、ポンチョを使っても重量面でのメリットはあまり感じられなくなってしまいました。なんといっても、3レイヤーで150g前後の雨具や、軽量シェルターも、今やたくさん出揃っています。Integral Designs がブランドの統廃合で消えて、ISUKA も手を引いてからは、タープにならない小型ポンチョは次第に忘れられて、市場から消えてしまいました。

シンプルなかたちをもう一度

かつてのかたちを今に伝える ULTRA SIL NANO PONCHO。着丈に注目。

かつてのかたちを今に伝える ULTRA SIL NANO PONCHO。着丈に注目。

そんな失われたカテゴリを復活させたのが、SEA TO SUMMIT の ULTRA SIL NANO PONCHO です。正直に言って、目新しい機能がある道具ではありません。しかし、ULハイキング文化の源流近くで注目されていた道具が、オリジナルに近いかたちでリバイバルされること自体が重要です。このアイディアは、ULのルーツを道具として残そうとする TRAIL BUM の思想とも通底します。タープ機能を省いたポンチョは、世界基準でみたら本流ではないかもしれないけど、日本のULの原点に近い道具といえるでしょう。

いままで市場からは消えていたものですから、これがいま一度選択肢に加わると、ここ数年でULを始めた人たちにとっては新鮮に感じられるでしょう。それに、同じ重さでもっと高機能な雨具がたくさんあるとはいえ、高機能なウェアの価格はおしなべて高いままです。このポンチョなら1万円を切るし、自分の経験と歩く山域の状況を考えたうえでなら充分に使える道具になります。

パッキングサイズはもちろんコンパクト。

パッキングサイズはもちろんコンパクト。

道具のかたちから歴史を知りつつ、コストも節約できる。自分のハイキングスタイルにとって、高級な雨具だけが正解なのかを考え直すきっかけにもなるでしょう。デイハイク中心のハイカー、身近な地元の山を愛するハイカーならば「これでもいいかな」と思えるかもしれませんね。

製品名
ULTRA SIL NANO PONCHO
メーカー
SEA TO SUMMIT
重量
145g
価格
¥8,800(税別)
購入
Hiker’s Depot ほか
問い合わせ
ロストアロー
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