以前、日本独自の進化を遂げたアウトドアギアとしてハイカーサコッシュの誕生と進化の歴史を紹介しましたが、それと同じような、と言ったら言い過ぎかもしれませんが、もうひとつ日本独自の進化を遂げているアウトドア・ギアがあります。
それはハイカーウォレット。俗に言う山財布ですね。
紙幣とカードがメインのアメリカではハイカーウォレットと言っても単なる小ぶりなポーチであることがほとんどですが、小銭の存在感の大きい日本では山財布にもやはり小銭入れがあったほうが便利。そんなわけで、特にUL系のガレージメーカーには紙幣と小銭とカードを分けて収納できるハイカーウォレットを開発していることが多く、気がつけば、結構な数がリリースされていることに気がつきました。
山財布といえど、一度シンプルで軽量な財布を使ってしまうと、普段も使いたくなってしまう人も多いと思います。実際、自分もその口で、必要充分な機能を満たしつつポケットの中で存在感の消えるその薄さと軽さを体感してしまうと、もう普通の財布には戻れません。
ともあれ、とにかく他所にはないものを作ることがガレージメーカーの存在意義。ハイカーウォレットにもそれぞれ独自のアイデアが投入されていて、さらにシンプルなだけにそれぞれのこだわりが際立ちやすいアイテムでもあります。そこで今回は4つのメーカーさんにご協力いただき、現物を見比べながら紹介していきたいと思います。
Simple & MellowなGREAT COSSY MOUNTAIN
まず紹介するのは、”King of Mellow Hiking Gear”を標榜するGreat Cossy Mountain(通称Gコ山)のPOP HIKER WALLET。日本のMYOG第一世代であり、ULシーンで「コッシー」の愛称で知られる大越さんが代表を務める〈Gコ山〉は、レジ袋を高級素材キューベンファイバーで模した代表作(!?)ガサゴソバッグなど、他とは一線を画した肩の力の抜けたデザインが魅力の新進メーカーです。そんなコッシーさんの作るPOP HIKER WALLETも、〈Gコ山〉らしくシンプル & メロー。
POP HIKER WALLETの最大の特徴は、小銭入れの開閉方法。埋め込まれたプラスチック素材により本体を少したわめるだけで開けられるので非常にラク。紙幣を二つ折りにしてキューベンファイバーのポケットに入れる方式も、最初は「やはり紙幣は広げて入れられるほうが使いやすいのでは?」と思ったのですが、試しに使ってみると意外と一枚づつでも取り出しやすく、普段使いでも問題なく使えるように感じました。
一見、シンプルすぎるほどシンプルに見えて、財布に必要とされる機能をギリギリ最小限に落とし込み、かつ大きすぎず小さすぎず適度な「ゆるさ」の絶妙なサイズ感は、ハイキングカルチャーに傾倒する人はたまらない魅力を感じるのではないでしょうか(僕もそのひとりです)。
- 製品名
- POP HIKER WALLET
- メーカー
- Great Cossy Mountain
- 重量
- 12g
- 価格
- ¥3,200(税込)
カスタム性が魅力のifyouhave
次に紹介するのが、アルコール/固形燃料/木材の3ウェイで使用できる軽量ストーブシステムTiMNEYがGearedでもお馴染みのifyouhave。元シナジー幾何学研究員という経歴を持ち、現在は高知県の里山に工房を構える山口貴史さんのメーカーです。ifyouhaveのWallet Coin Customは一見Gコ山のPOP HIKER WALLETと非常によく似たデザインなので、両者の比較をしながらこの項を進めていきたいと思います。
まず、POP HIKER WALLETは紙幣は二つ折りにして入れる方式でしたが、Wallet Coin Customには紙幣を広げて入れられる札入れが付いていて、小銭入れはジッパーによる開閉式。POP HIKER WALLETの片手で簡単に開けられる方式も非常に優れていましたが、Wallet Coin Customのジッパーは小銭入れ中央に付けられているので中身がより見渡せて、小銭が取り出しやすいように感じました。開けやすさを取るか小銭の取り出しやすさを取るかで、両者のこだわったポイントが見えてくる気がして面白いですね。
Wallet Coin Customの紙幣を広げて入れられる札入れは確かに便利なのですが、POP HIKER WALLETの二つ折りで入れるのも「俺はこの軽さを優先してあえて普通じゃない財布を使っているんだ」というULハイカー的な自意識を刺激されて、これはこれで甲乙つけがたい気もします。
一方、Wallet Coin Customにしかない最大の特徴は、その名の通り本体生地5色、ジッパー14色の中から自由に組み合わせて自分好みの配色の財布を作れること。基本的に受注生産で、自分でミシンを踏む小規模メーカーならば多少生地やジッパーの在庫を揃えておけばそれほどの苦労もなく提供できるサービスなので、他社も大いに参考にすべきアイデアではないでしょうか。Wallet Coin Customでは、さらに小銭入れとカード入れの配置を逆にした左利き用のモデルが用意されている点もユニークですね。
もうひとつ、Wallet Coin Customの面白いポイントは、オプションで用意されている専用のボールペン。たしかに外出時ふとしたタイミングで筆記具が必要になるシチュエーションは多々あるので、常に財布に入っていると便利かもしれません。なんとなく文系の匂いのするifyouhaveらしいアイデアですね。
- 製品名
- Wallet Coin Custom
- メーカー
- ifyouhave
- 重量
- 12g(Black、white、red、navy)、9g(Grey)
- 価格
- ¥3,800(税込)
ビジネスシーンでも使える!? Beautiful money
そして、このふたつのウォレットの特徴をひとつにまとめたような構造を持つのが、Beautiful money Wallet X-Pac。ifyouhaveと同じく紙幣を広げて入れられる札入れを持ち、小銭入れはGコ山と同じく埋め込まれたバネ状のプラスチック素材(?)をたわめることで開閉する方式。似たような方式に見えて、こちらはバネが2枚仕込まれているため開閉にはもう一方の手も使う必要があります。小銭を取り出すときはどうせもう一方の手を使うので、そこまでの差はないのかもしれませんが、筆者は片手で開けられるGコ山の方がラクで良いなと思いました。反面、Beautiful moneyはバネ2枚のためよりしっかり閉められると同時に広く開口し、小銭落下を防ぐフラップも必要ないため、これまで紹介した3点の中ではもっとも小銭の確認がしやすかった点は特筆しておきます。
Beautiful moneyのユニークな点は、ブランドコンセプトとして「ビジネスシーンでもセーフなアウトドアギア」を標榜している点。確かに、特に黒のカラーなら遠目なら普通のウォレットに見えなくもありません。その大きな要因となっているのが、シルクスクリーンで手刷りされているという内面に配されたブランドロゴ。まったく細かいポイントですが、このロゴひとつで途端に「ビジネスっぽく」見えてくるのが面白いですね。
シンプルながらよく練られた構造は、二つ折りのハイカーウォレットとしては決定版的な完成度に達しているのではないでしょうか。ハイカーウォレットのみならず他のアイテムでもぜひ「ビジネスシーンでもセーフなアウトドアギア」を見せていただきたいですね。
- 製品名
- Beautiful money Wallet X-Pac
- メーカー
- Beautiful money
- 重量
- 14g
- 価格
- ¥4,300(税込)
ここまではふたつ折りのハイカーウォレットを見てきましたが、最後に3つ折り構造のものを紹介しましょう。先日、調布市のフローラルガーデンアンジェで開催されたイベント〈Off The Grid2016〉の会場で瞬く間に完売してしまったというMINIMALIGHTのPLAY WALLET -X-PACがこちらです。
3つ折り構造のコンパクトさが魅力のMINIMALIGHT
一見して、これまでのハイカーウォレットではあまり見かけなかった3つ折り構造が目に付きますが、PLAY WALLET最大の特徴はカードの収納方法でしょう。ゴムでまとめるという非常に単純な構造ですが、思わず「その手があったか」と言いたくなる斬新なアイデアが素晴らしいですね。この構造には何度かの大幅な仕様変更を経つつ、1年ほどの試作期間を経てたどり着いたのだとか。ただ、気になるのはその耐久性。ゴムが伸びたり切れたりしたら終わりでは、困りますよね。MINIMALIGHTに問い合わせたところ、「完成品で引っ張り試験を繰り返し行った結果、弱くはなるものの使用には問題無い強さを保持していたので使用可能と判断しました」という回答をいただきました。このゴムの方式で特筆すべきは、一番上のカードの取り出しやすさ。さっと取り出せる感覚は快感です。反面、下の方のカードは取り出しにくいといえばにくいのですが、よくよく考えるとそれは他のウォレットでも変わらないかも……。
ただ1点、3つ折りにすることで面積は小さくなりますが、財布の厚みは出てしまいます。カードをゴムで止める構造も厚みを少しでも減らそうという意識の表れだとは思いますが、ハイカーウォレットは軽さに加えて薄さも大きな魅力なので、この点は好みが分かれるかも。男性は財布をパンツのヒップポケットに入れる方が多いと思いますが、PLAY WALLETはコンパクトさを生かしてサイドポケットに入れる方がしっくりくるデザインだと思いました。
MINIMALIGHTは未だリリースの目処は立っていないものの、ハットやカルデラコーンのような風防兼ゴトク、バックパックなどを構想・試作中だとか。このPLAY WALLETの完成度を見るにつけ、かなり期待が持てそうです。
- 製品名
- PLAY WALLET -X-PAC
- メーカー
- MINIMALIGHT
- 重量
- 約20g
- 価格
- ¥4,000
さて、今回は4つのメーカーのハイカーウォレットを見てきましたが、比べてみるとやはりそれぞれに設計思想の違いが見えてとても面白かったです。どれも完成度が高く、普段使いにもまったく支障がないと太鼓判を押せますが、ただ財布は非常に身近な存在で触ることの多いアイテムだけに、ちょっとした使い勝手の悪さもストレスになる、実は非常にシビアなジャンルですよね。今回の記事を参考に理想のハイカーウォレットを見つけていただけたら幸いです。