旅のはじまりは、日常を断ち切ることだった
40を過ぎて、ふとこのままでいいのかという思いが沸き起こった。仕事に不満は無いけれど、この先大きく何かが変わることも無さそうだし、日々の仕事を片付けるのに追われているうちに、一年なんてあっという間に過ぎてしまう。
夫婦共働きで10年近くやってきたけれど、お互い忙しくて最後に妻とゆっくり話したのがいつだったかさえ思い出せない。毎月欠かさず行っていたキャンプも、一年近くご無沙汰だ。ここで一度立ち止まってみるのもいいんじゃないか。そんな風に思うようになっていった。
自分の中でそんな思いが強くなったある日曜日の夕方、ぼーっとテレビを眺めている妻に、僕は話しかけた。「ねぇ、ちょっと会社辞めて休んでもいいかな?」
妻は一瞬驚いた顔をしていたけれど、すぐにぱっと明るい笑顔になると、「私も辞める!」と驚くような答えを返してきた。「ええっ??」
クルマに乗って荒野を遥か彼方まで旅するオーバーランドツアー
結局のところ、彼女も僕と同じような思いを抱いていたようだ。さすが我が妻。以心伝心である。そしてすぐに「これがしたい!」といってスマホの画面を見せてきた。
そこにあったのは「Overland」の文字。アフリカの大平原を、キャンプをしながら旅しているインスタグラマーの写真だった。そして大きなSUVの上には折り畳みのテント。彼女はこのスタイルがいたく気に入っているようだった。
しかし現実問題として、自分の車でアフリカまで行くのは難しい。調べてみると飛行機がセットになったツアーもあるようだが、それだと色んな人とバスに乗って移動するようだ。それはちょっと違う。そこで僕は提案した。
「このスタイルの車を手に入れて、国内を旅するのはどう?それならハイキングや釣りだってできるし、日本一周したら楽しそうじゃない」。この案に彼女も賛同してくれた。日本でオーバーランドを楽しむんだ!
オーバーランドスタイルで国内旅行を楽しむ
僕らは早速会社に退社の意向を伝えると、すぐに車探しに取り掛かった。少ないながらも出るであろう2人の退職金と、家を買うはずだった貯金を合わせれば、車を買って半年間遊ぶくらいは出来そうだ。
後のことはまたその時に考えればいい。とにかく今は2人の時間を大切にしたかった。
最初に探すことにしたのはルーフトップテント。そこが仮の住まいになるわけだから、使い勝手や快適性は重要なファクターだと思うのだ。先に車を決めたところで、それに合うテントが気に入らなかったら意味がない。問題は、ルーフトップテントを売っているところはたくさんあるけれど、実物をチェックできる店がないことだった。
しかし根気強くネットを駆使して探していると、我が家から程近いショップにルーフトップテントを載せたデモカーが置いてあるのを発見。休みの日に見に行くことにした。
快適性に優れデザインも秀逸な「ARB」のルーフトップテント
そして、はじめて目にしたそのデモカーに、僕らはノックアウトされてしまった。使い勝手もスタイルも完璧だ。テントは「ARB」というはじめて見るブランドのもの。オーストラリアのメーカーらしい。
雄大な自然に恵まれた国で使われているだけにすごくしっかりしているし、広げると小さなロッジみたいな形でカワイイ。クルマのサイドにはオーニングが付いていて、雨の時も便利そうだ。
そしてそれらのパーツが組み付けられた車体はトヨタの「ランドクルーザー プラド」。あのプラドがこんなにワイルドになるなんて! 一応細かい部分まで入念にチェックしているフリをしたけれど、僕の心は見た瞬間に決まっていた。そしてそれは以心伝心の妻も同じだったようだ。
当初の予算は少しオーバーしそうだったけど、僕は迷うことなくショップの人に言った。「これとまったく同じクルマを作ってください!」と。
ルーフトップテントがあれば、どんな場所でも快適に眠れる
あれから一ヶ月。最初は待ち遠しかった納車日も、仕事の整理や引き継ぎをしているうちにあっという間にやってきた。いよいよ僕らの旅がはじまる時だ。キャンプ道具と身の回りの本当に必要そうなものだけを詰め込んで、試運転もそこそこに、まるでリードから解き放たれた犬のように僕らは出発した。
僕らのオーバーランドツアーは、まったくもって順調だった。キャンプ地は事前に徹底的にリサーチしていたから、毎日誰もいない野原や河原、入り江で眠りについた。
ルーフテントの快適さは想像以上で、設営も簡単だし何より床が完全にフラットなのが気に入った。キャンプに行くと眠りが浅くなる妻も、日が高く登るまでぐっすり眠っている。少し蒸し暑いなと思っても、窓を開ければ風がすっと入ってくるし、遠くまで見渡せて眺めがいい。まるで高台に小さな別荘を持ったような気にさせてくれる。しかも毎晩違う景色が見られるんだから、こんなに贅沢なことはない。
旅の途中で登山口を見つけたら軽くハイキングをしてみたり、海岸線に出たら釣りをしてみたりもした。こんな風に時間にとらわれず、好きなことを好きな時にするなんて、学生の時以来だ。もし妻と学生時代に知り合っていたら、こんな風にデートをしていたんだろうか。
でも多分、自由な時間を贅沢に思えるのは、自分が社会人として忙しい日々を送った経験があるからなんだろう。学生時代には当たり前すぎて、きっと自由な日々が素晴らしいなんて気づかなかったはずだ。そう考えると、これまで働いてきた日々も決して無意味じゃなかったように思えてくる。
設営が楽だからこそ得られる、自由な時間を贅沢に過ごす
でも結局一番楽しんでいるのは、何もしない時間なのだった。海岸線を見つめたり、森の音を聞いたり、焚き火を眺めたり。食事もたまにはその土地の食材を仕入れて料理するけれど、通りがかりのレストランにふらっと立ち寄って、キャンプ地では何もせず夕陽を眺めていることの方が多い。
そして妻とは本当によく話をしている。今まで聞いたことがなかった子供の頃のこと、家族のこと、友達のこと。犬を飼っていたことがあるのも初耳だった。
何もしない日々を過ごすことで、僕ら夫婦はお互いを今まで以上によく知り、絆が深まったような気がしている。この旅がいつまで続くのか。まだ始まったばかりでそれはわからないけれど、最初に想像していたよりは早く終わることになるのかもしれない。僕はこの自由な日々を楽しみながらも、家に帰ってから始まる新しい生活を想像して、それさえも楽しみにしている。生きることに前向きになっている自分。その気持ちを思い出させてくれただけでも、この旅をはじめて本当に良かったと思っている。
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