TATO GEAR の AB-13 HYBRID STOVE は、メイド・イン・USAのおもしろいアルコールストーブです。17gという軽さもさることながら、カーボンフェルトと燃料ボトルをシリコンのチューブでつないで燃焼中の燃料補給を可能にした、他にはないつくりが目を引きます。
※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。
従来のアルコールストーブは、燃焼中の炎が見えにくい上に、構造上いったん火を消してからじゃないと燃料の補給ができませんでした。扱いに慣れて、火力を見極めてどのぐらいの燃料が必要なのかを把握できるようになれば克服できるものの、こうした点がネックになって二の足を踏んでいた方もいらっしゃるでしょう。でも、カーボンフェルトなら燃焼面が赤くなるので火加減が一目でわかりますし、炎の大きさも一定のところでキープされるのでコントロールしやすいです。テストしてみたところ、火力も大手メーカーのアルコールストーブに引けをとらない塩梅でした。
なによりも、「アルコールストーブにこういう切り口があったのか!」と思わせてくれる造形に惹かれます。ギーク感があるというか、男の子が大好きなオモチャのような……。ULの道具ならではの、従来の山道具とは違うデザインのおもしろさを体現していると思います。
もともと日本のUL文化では、アルコールストーブの自作を主軸にして MYOG(Make Your Own Gear)の柔軟な発想が育まれてきました。世界を見わたしても、日本のアルコールストーブはかなり稀有な進化を遂げています。その傾向は2000年代頭から今に至るまで続き、高機能なアルコールストーブの開発はある程度いくつくところまでいった感があります。
たとえば、ここ数年は毛細管現象でアルコールを吸い上げて着火させ、本燃焼までのプレヒートの時間を短縮して燃費をよくし、さらに炎をサイクロン状に巻き起こして燃焼効率を向上させるモデルの開発が進んでいます。3Dプリンタを駆使した FINAL FLAME GEAR や、フライフィッシャー向けの RSR が作っている削りだしのモデルなどが代表例です。また、FREELIGHT が昨年発表した BLAST BURNER は従来のアルコールストーブの燃焼システムから大きく飛躍し、まるでガソリンバーナーのような燃焼と高燃費を実現させた画期的なモデルとなっています。
これらの開発の背景として日本のアルコールバーナー界の鬼才である JSB さんの研究開発は無視できません。彼のアイディアや研究成果を、いろんな人が製品化までブラッシュアップしてきたといえるでしょう。その結果、最先端の低燃費・高効率のアルコールストーブは格段に進化してきたのです。
……でも、個人的にはもっとバカっぽいものがあってもいいかな、と(笑)。技術的な洗練とは違った、道具としてのおもしろさがあってもいい。アルコールストーブって、そういう自由なものでしたから。今の日本だと、自作しなくても買えるアルコールストーブの多くはアルミ缶を再利用したものが主流なので、この AB-13 のようにアルミ缶に頼らずいちから新しいかたちに挑戦したものをみると「おおっ!」と興奮してしまうのです。もちろん、ただデザインが斬新なだけでなく、その設計がきちんと理に適っていて、初心者でも扱いやすいアルコールストーブになっています。
最先端のものと比べて「優れている」とは決して言えません。しかし、もともとウルトラライトの道具には、どこかいびつで足りない部分があって、それを「まあしょうがねえな」みたいな感覚で使うおもしろさもあるはずです。そんな遊び心を思い出させてくれる、茶目っ気のあるアルコールストーブです。
- 製品名
- AB-13 HYBRID STOVE
- メーカー
- TATO GEAR
- 重量
- 17g
- 価格
- ¥6,980(税別)
- 購入
- Hiker’s Depot