八幡さんが多摩川を漕いで下ったときの第3回連載はこちら
カヤックに乗って、東京湾をあちらこちらと漕いでいました。
何か遊びのきっかけになるような場所や、オモシロイところはないかな、と。そんなある日「目黒川の桜を、下から見ませんか?」というお誘いを受けました。目黒川は、桜で有名ですが、川から眺めたことはありませんでした。川の付近にカヤックを下せるところはないから、東京湾から遡上していく、というのです。そんな楽しみ方もあるのかと二つ返事で向かいました。
大井競馬場付近の河口からエントリー。といっても、桟橋やスロープがあるわけでもなく、岩が敷き詰められている斜面をカヤックを担いで降ろすのです。岩には小さな貝が付着しているので、皮膚にぶつかれば容易に切れます。きっと昔は、船着き場のようなものが至るところにあったのでしょうが、その痕跡は見当たりません。
出発すれば、東京モノレールの下を漕いでいきます。
多摩川のように河川敷はなく、景色はビル、ビル、ビル、マンション、マンションです。川の両岸は、コンクリートの壁になっており、人は一切下に降りられません。つまりただの水路のようになっています。無機的な街の景色が、とても新鮮に映りました。
この日、話しに聞いていた悪臭はなく、正直、きれいだと感じました。桜が見え始めると、川側にかぶさるように伸びた花が、川面に反射して素晴らしい。陸の上には沢山の人が見えますが、川に人はおりません。良い眺めを独占しているようで、少し心苦しくも、贅沢な気分です。
五反田を越え、目黒駅を越え、中目黒駅の手前くらいまでくると……。
川の底が浅くなりカヤックでの航行はできなくなりました。ここで一つの発見があります。中目黒まで海の干満の影響下にあること(つまり海の生き物もいます)。満潮時間と干潮時間とで、水位が1メートル以上も違います。「中目黒の海」を行けるところまでいくと、陸にあがる階段が現れます。が、上がると冊が張ってあるのです。陸側から川へ降りられないようにしているようです。
それを乗り越えて広場になっている場にいくと小さな公園になっていました。そこに「清流の復活」という大きな石碑があるのです。少し調べてみると、かつて目黒川は生活と密着した川であり、綺麗であったというのです。
人口が増え、下水を垂れ流しする量が増えることで汚染されていった歴史があるようですが、今流れている水は綺麗に見えます。さて、この水、どこから流れてくるのだろうという至極当たり前の疑問が生まれました。
目黒川に入り、歩いてみた。
後日、カヤックが遡れなくなった場所から川に降りて、行けるところまで歩いてみようと仲間で集まりました。水位は膝下くらい。水はやはり綺麗です。が、ゴミがあるので拾いながら歩きます。
都会のビル、コンクリートの壁に囲まれた川に触れられること自体、思ってもみないことでした。そんな川を歩くだけでも、単純に楽しい気持ちになったのが発見です。「水」には不思議な力があるようです。
中目黒から池尻大橋まで歩いていけました。ところどころ非常用縦階段のようなものが地面から川へと延びていたり、歩いて降りられる階段もありました。ただ道路へ上がろうとすれば、やっぱり冊があり、鍵がかかっているのです。ともかく道路側から川へ降りさせない、という意思が見えます。
川って降りたら違法だったかな?
国道246号線と交差するところから、川は地面の下に入り込み、いわゆる暗渠(地下に設けた水路)になっていたのです。
川の流れが、どこから来ているのか? 道路に上がると、また発見。暗渠にした川の上には道路と整備された小川が流れていました。
川の上に川???
どうやら遊歩道沿いに人工的な小川を作っているのでした。丁寧にこちらにも立ち入り禁止の看板が……。じゃぶじゃぶと子どもたちが遊べるようにしたら、どんなに良いのに、どうしてこういうことになるのか。想像すれば、誰かが怪我をしたときの責任問題とか、植え込みの景観が崩れるとかになるのでしょうか。業者が管理するのではなく、地域の人が手入れしつつ、遊べる環境になっていれば良いなと思う反面、そんな面倒なことを住民は求めてないのかもしれないとも……。
そこには目黒川の地図があり、全体像が見られるようになっていました。水の流れは、新宿の下落合にある浄水場から流れ出ているとのこと。どうやら、浄水した水を流しているのだとか。ここでまた疑問がわきます。浄水した水が、地面の下に作った人工的な水路を流れてくるのだとしたら、本来の目黒川はどこへいってしまっているのだろう。そして、何故、わざわざ水洗便所のように浄水した水を延々と流しているのか。
どこか遠くの非日常を過ごせるアウトドアでなく、日常の都会の暮らしに水と触れられる遊び場を作りたいという思いから、ぶらぶら散歩するように歩き出しました。
目黒川は、そのきっかけになるのではと思い、通うことになるのですが、この後、都会における「水」の問題に深くはまり込んでいくことになるのです。
~#5につづく~