ハンモック特集も大詰めとなる今回は、老舗メーカーの新たな一手をご紹介しつつ、ブームの本格後の日本でどのような変化が望まれるのかをお話しましょう。
※編集部注: 本稿は、Hiker’s Depot 店主の土屋智哉さんと、同店きってのハンモック通である二宮勇太郎さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。
Hennessy Hammocks – Leaf Asym Hammock
まず気になるのは、ハンモック・ブームの火付け役ともいえる Hennessy Hammocks の動向です。新たな波を受けて、その源流ともいえる老舗は、最大の強みであったオールインワンのシステムをばらして Leaf Asym Hammock という本体だけのモデルを売り出しはじめました。
Hennessy はこれまでにもハンモック本体のサイズや素材を変えてバリエーションを出していたのですが、オールインワンシステムだけは固持してきました。本体とバグネットとタープがあり、独特のエントリー方法を採用したシステムは、斬新で完成度も高かった。それをあえて崩してきたことには驚かされます。
Leaf Asym Hammock にはバグネットもタープもついていません。しかし、スネークスキンと呼ばれる細長い袋の両側から本体を引っ張り出して固定するシステムは健在ですし、これは Hennessy が特許をとっているので他のメーカーは真似できません。さらに、設営時に本体にテンションがかけやすく、寝心地を簡単に調整できるリッジラインもついています。
おそらく、Hennessy はこうした本体に関連する細部の独自性と優位性だけでも、新たなハンモック・ユーザーにアピールできると自負しているのでしょう。オールインワンだから優れているのではなく、ハンモックの寝心地が優れているのだということを改めてアピールする意図もあるかもしれません。他社が周辺の道具を続々と展開している今は、組み合わせのおもしろさも出てくるので、そういった時代の流れも意識したうえでの英断だと思います。
- 製品名
- Leaf Asym Hammock
- メーカー
- Hennessy Hammocks
- 重量
- 533g
- 価格
- ¥10,800(税別)
- 購入
- エイアンドエフ オンラインストア 、各取扱店
- お問い合わせ
- エイアンドエフ
EXPED – Travel Hammock Plus
EXPED もハンモックを作って長いメーカーで、実際にハンモックを使った人なら誰もが感じるストレスを解消するために、細かいところにまで気が利いた工夫がほどこされています。
たとえば、ハンモックの設営にはツリーストラップを木に巻きつける工程が不可欠です。その際には、通例としてツリーストラップとハンモックを切り離さなければなりません。ハンモック未経験の方には何を言っているのかわからない細かすぎる話ではありますが、ハンモックユーザーなら誰もが感じているちょっとした面倒です。
EXPED のハンモックは、標準装備でストラップの末端にトグルのループをつけているので、木に巻き付けてそれを留めるだけで固定できるようになっています。ハンモック本体とツリーストラップを分離しなくてもツリーストラップを固定できるので、設営が非常にスマートになります。またカラビナも必要なくなるので、軽量化にも一役買っている。こうしたシステムが、EXPEDのツリーストラップには標準採用されているのです。これはハンモックを使いこんでいる人にしかできない発想です。
他にも、雨天時にラインをつたわる水を防ぐためのフラップといった製品もラインナップされています。これも、雨の中でハンモックを使って濡れた経験があるからこその一工夫でしょう。
天気のいい日にハンモックを張ってリラックスするのもいいですが、彼らは寒かろうが暑かろうが雨が降ろうが、ハンモックを使っている。「ハンモックはどんな環境でも使えるよ」という、他社以上の強いこだわりが製品に反映されていることがひしひしと伝わります。きっと EXPED の開発陣には相当なハンモックジャンキーがいるはずです(笑)。
- 製品名
- Travel Hammock Plus
- メーカー
- EXPED
- 重量
- 425g(ハンモック本体295g+コード130g)
- 価格
- ¥8,500(税別)
- お問い合わせ
- アクシーズクイン
きたるべきハンモック・ブームにむけて
これまでご紹介したように、アメリカやヨーロッパではハンモックが実用的なアウトドアギアとして定着しつつあります。いつまでも「ハンモックってあくまで雰囲気の道具だよね」と言っているようだと、日本はこの新しいムーヴメントに乗り遅れてしまうでしょう。
第1回でお伝えしたように、日本の自然環境はハンモックに適しています。わざわざ森を切り拓き、斜面をならしてキャンプ場を作らなくても野営ができるようになれば、自然環境へのダメージも大幅に軽減できるはず。とはいえ、それはまだまだ理想論です。日本ではハンモック泊に対する理解の問題だけでなく、山岳地での幕営に関する様々な問題も絡んできます。「どこでハンモックを張ればいいのか」と問われたら、現状ではオフィシャルな答えは簡単にお伝えできません。
しかし、使い方を問わざるをえない状況は、裏を返せば試行錯誤のおもしろさをたっぷり味わえるということでもあります。どこでどのように使えば他人に迷惑をかけずに楽しく過ごせるのかを、自分で探していく。これは十数年前のULハイキングの状況とも似ています。世間的に評価が定まった遊び方をなぞるのではなく、自ら開拓する楽しさを味わえるのです。
ハンモックは日本中どこでも地域格差なく楽しめるギアです。今まで魅力を感じなかった近所の裏山も、ハンモックを張ってみたら意外とおもしろいかもしれません。そうすれば、わざわざ遠くの山に出かけて、混雑したキャンプサイトでテントを張らなくても、日常からちょっと道を外れるだけで、自然のなかで寝泊まりする楽しさを味わえるようになる。「アウトドア=山」という認識すらくつがえして、身近な自然を魅力ある遊び場に変える可能性が、ハンモックには秘められています。
だからこそ、まだハンモックの黎明期にある日本ではいちはやく動きはじめたユーザーひとりひとりが自分たちの遊び場を守るためのリテラシーを強く意識する必要があります。いまハンモックを手にすれば、こうしたルールづくりの醍醐味も含めて、新しいムーヴメントを第一線で切り拓いていくおもしろさを体感できるはずです。