バックパックが自作できるキット!?実際に作ってみた様子をレポート

Great Cossy Mountainが自作バックパック・キットをリリース!

geared
以前、〈Off The Grid〉のアフターレポートでもチラリと紹介しましたが、UL系国産コテージメーカーの Great Cossy Mountain が、バックパックの自作キットをリリースしました(2017年6月初旬では展示販売会での受注販売のみ)。

ともあれ、多くの方が「バックパックの自作!? そんなこと素人にできるの?」と思われるかもしれません。そこで筆者(ミシン素人)が実験台となり、Great Cossy Mountain の工房に伺って主宰の大越智哉 a.k.a コッシーさんに御指導いただきながら実際に作ってみましたので、その模様をレポートさせていただきたいと思います。

〈Off The Grid〉のレポートでもお伝えしたように盛り上がりを続ける国産コテージメーカー・シーンですが、その中でも Great Cossy Mountain は「最左翼(最右翼?)」ともいえる存在です。

ULハイキングの道具はシンプルであればシンプルなほど是であるとされる傾向が強いですが、Great Cossy Mountain ほどシンプリシティに重きを置いたもの作りを行っているメーカーは、世界的にも希有ではないでしょうか。
geared Great Cossy Mountain工房に佇む大越智哉 a.k.a.コッシーさん。体はおじさん、頭脳はシティボーイ。
たとえば、Great Cossy Mountain のバックパックは基本的に一枚布を封筒状に縫い合わせることでできあがっていますし、コッシルシェルターと名付けられたワンポールシェルターに至っては、一枚布を1ヶ所縫い合わせているだけ(もちろんポール受けやガイライン基部など細かい部分の縫製はしていますが)という度肝を抜かれるほどのシンプルさなのです。

それを単に「素朴」と感じる人もいるでしょう。ですが、縫製箇所が減ればそのぶん強度は上がりますし、軽量化にもなります。故障しても修理しやすく、シンプルな道具はトレイルでの行動や生活をよりシンプルにもしてくれます。

そして、そんな Great Cossy Mountain 最大の特徴であるシンプルさを最大限に生かす試みが、今回の POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit と名付けられたバックパックの自作キットなのです。

ULの伝統である自作バックパック

geared POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit の内容物一覧
ともあれ、「バックパック」と「自作」という言葉に相容れないものを感じる人も多いかと思います。ですが、ULバックパックのオリジンである Ray=Way Backpack はキットのみで販売されていますし、もうひとつのオリジン、Gossamer Gear G4 もインストラクションがフリーダウンロードできます。

ULバックパックやタープといったULの基本的な道具は設計がシンプルなこともあり、ULカルチャーにおいてMYOG(Make Your Own Gear)と呼ばれるギアの自作は、トラディショナルなマナーのひとつでもあるのです。

しかも、POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit の設計は Ray=Way や G4 よりさらにシンプルですし、日本語で書かれた写真入りの説明書まで付属しています。
geared 写真入りインストラクションはかなり詳細。アウトドアギア縫製の基本を勉強するにも最適では。
Ray=Way を主宰するULハイキングの始祖、レイ・ジャーディンは自分でギアを自作する意義を、こう語っています。

「一般的に信じられていることとは反対ですが、店でギアを買う必要はありません。あなたは自分で作ることができます。そしてそうすれば、あなたは消費者心理から大きな自由を得て、それはあなたの人生に大きな変化をもたらします。(中略)ミシンを使うことは、車を運転するようなものです。自動だし、とても簡単です。(中略)だから先に進んで、古い考えから脱出してください。あなたのパラダイムを、それを購入するのではなく、自分のギアを作ってシフトしてください」(www.rayjadine.comより。筆者訳)

かつてこの文章を読んで鼻の穴を大きく広げた筆者は、早速 Ray=Way Backpack Kit を購入しました。が、英文で書かれた簡素な説明書と素材がゴロッと入った「キット」に尻込みし、そのまま数年間、箪笥の肥と化していることは言うまでもありません……。

だけど、コッシーのキットなら作れるはず! しかも本人の指導付きなら……と、この取材を口実に西千葉にある Great Cossy Mountain の工房に押しかけたわけです。

いざ制作!

geared 濁り目おじさん同士でこれから密室での共同作業が始まります……。
POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit は本体とショルダーハーネス用のPUコーティングナイロン生地と開口部用の薄手のナイロン生地、ショルダーハーネス用のメッシュ生地とパッドの心材と型紙、ストラップ用のテープとコード、各部のスライダーパーツ、インストラクションからなります。

分厚いインストラクションはステップごとに写真で解説されており、Ray=Way Backpack Kit とは雲泥の差。手順も非常に細かく説明されているため、基本的な縫製の知識のない初心者にもわかりやすそうです。
geared 切り出し作業は上質なカッターと広いカッター台、50cm以上の長い定規があると非常にはかどります。
作業はまずは切り出し作業から入ります。本体用生地を本体用とショルダーハーネス用に切り分け、テープ類も指定のサイズに切り出し、断面をライターで溶かして処理しておきます。

ショルダーハーネス生地を型紙に沿って切り出し、まずはチェストストラップとショルダーハーネスのバックル基部の縫い付けます。

これまで数回しかミシンに触ったことがないので初めはおっかなびっくりでしたが、コッシー先生のご指導もあり、それなりに形になってきました。

コッシー先生のミシンは定価8~9万円ほどのものだとのことですが、やはりそれなりに良いミシンの使いやすさを実感。厚手のポリプロピレン製テープが何重かに重なってもサクサク縫えます。

メッシュ生地と縫い合わせ、不要な部分をカットし、中にパッドを差し込むとちゃんとショルダーハーネスの形になりました。さっきまで単なる生地とテープだったものが立体的な「モノ」になったことに、ちょっと感動! ここまでの所要時間は2時間ほどでした。
geared メッシュとナイロン生地を縫い合わせるショルダーハーネスの縫製はズレやすいので、これでもかというくらいマチ針で留めておくことがコツ。
geared 苦闘2時間、ショルダーハーネスが完成。さっきまで単なる布とテープだったものが立体物になってちょっと感動!
geared 荷重のもっともかかるショルダーハーネスは幾重にも縫いつける。ポイントを押せてくれるコッシー先生。
geared いよいよバックパックらしくなってきた!
続いて袋部分の縫製に入ったのですが、一枚布で作られた「ただの封筒型」の Great Cossy Mountain のバックパックのシンプルな基本設計にも、実は様々な工夫が入っていることを実感させられる行程でした。

まずは開口部のバックルの基部となるストラップとショルダーハーネスを縫い付けるのですが、本体生地を巧みに織り込みながら幾重にも補強をかけて縫い付けていきます。このあたりは数々の試作と失敗を繰り返しながら辿り着いた設計だとか。とくに面白かったのは、ショルダーハーネスを取り付けるボトム部の作り方。

折り紙のような要領で平面だったボトム部が立体になりさらにそこがショルダーハーネスの基部となる作りは非常に頑丈ですし、荷重バランス的にもボトムとショルダーハーネスが直結した作りは良好なはずで、それをシンプルな方法で達成している作りに改めて唸らされました。
geared Beatlesの『Let it Be』を聴きながらラストスパートをかけます。
ここで筆者は一捻り加えたくなり、POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit には本来ついていないバンジーコードの取り付け基部をつけることにしました。

コッシー先生は「そんなものいらん!」と言っておられましたが、やっぱりトレッキングポールとか傘とか外付けできる方が便利じゃないですか? シブシブ基部の取り付け方を教えてくれたコッシー大先生、あざーす!
geared 丸一日かけてついに完成! 愛い奴じゃ!
そんなこんなで朝10時から作業を始め、途中で何度か休憩を挟みつつ正味7時間ほど。ついに、ついに筆者初めての自作バックパックが完成しました。

背負ってみると、コッシー先生設計なのだから当たり前ですが自分で作ったとは思えないほど良好な背負い心地! 縫製もご指導の甲斐あってか遠目にはまったく問題なし! 強度的には、これから使っていく中でその答えが出るのでしょうが……。

ですが、なによりも筆者が特筆したいことは、やはり自分で縫ったバックパックはとてもとても可愛いということです。作っている途中から、もはや自分の子供のような気分でした。

自分で手を動かすことでしか得られない感慨

自作キットと聞いて、「なんで自分で作らなきゃならないんだ」と思う人もいると思います。実際、今回はコッシー先生から直接指導をいただいたので7時間ほどで出来ましたが、もしもひとりなら倍以上の時間がかかったかもしれません。

ミシン、定規、待ち針、手芸用クリップ、糸切りはさみ、カッター、カッター台など、制作に必要な道具も多いです(必ずしもすべて必要なわけではありません)。

それでも、自分で手を動かすことでしか得られない感慨をたっぷり得られる POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit に、筆者は価格以上の価値を感じました。
geared バンジーコードを取り付けてみた図。本体色は赤、緑、グレーから選べる。本体素材はPUコーティングナイロンで、適度な厚みで縫いやすい素材。
geared 折り紙のように折って作るボトム。シンプルながら荷重バランスも良好。
geared 縫製が地味に大変だった開口部。バックパックの容量は35 Lほど。
geared GCMのゆるキャラ、ガサゴソ君の他、鹿ちゃんロゴパッチも付属。もちろんパッチはつけてもつけなくても可。
「作る手間や時間、材料代を考えたら、完成品を買ったほうが絶対に安いんですよ。でも、自分で作ることによって道具への理解も深まるし愛着も湧く。大袈裟に言えば大量生産・大量消費へのアンチテーゼみたいな側面もないことはないですけど、もの作りの裏側を知ることって面白いし楽しいし、逆に既製品の良さも別の角度から見えてくる。モノや社会を見るときの視点が増えるというか、それは既製品を10個買っても見えてこないものなんだと思うんです。でも、単純に、僕自身が始めて自分で作った道具でハイキングに行ったとき、すごく楽しかったんですね。その経験をみんなに味わって欲しいんです」

と、語ってくれたコッシー先生。これからもキット化をどんどん進めていく方針だそうです。筆者個人としても、Great Cossy Mountain がいつの日 かキット販売がメインのメーカーになったとしたら、最高にカッコ良いと思います。

この大量消費の世の中において、モノを売るのではなく、アイデアと経験と知識と体験を売るメーカーがあるとしたら、それこそ未来的だとは思いませんか?

「だから先に進んで、古い考えから脱出してください。あなたのパラダイムを、それを購入するのではなく、自分のギアを作ってシフトしてください」

製品名  : POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit
価格   : ¥10,000(税別)
メーカー : Great Cossy Mountain

curator/三田 正明

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