生木も燃やせる鉄製のイノシシ
飯能市内と秩父を結ぶ国道299号線を走っていると、道路わきに何やらイノシシの形を模した鉄の塊が幾つも並んでいるのが見えてくる。この地で16年続く浅見鉄工は、薪ストーブを主力商品にしている町の鉄工所。代表の浅見照雄さんはこのあたりの名物オジサンで、その大柄な体格とは裏腹にいつも笑顔で笑っている。そのユニークな性格は、同社の製品を見るだけでもお分かりいただけるだろう。ズングリとしたボディに脚が4本。そしてニュッと伸びた牙。そう、浅見鉄工の薪ストーブはイノシシの形を模したものだ。
「何をするときでも遊び心を忘れない。それが私のポリシー。ストーブは暖かい時間をくれるものなんでね、こういうデザインの方がみんな楽しいし愛着が沸くじゃないですか」
浅見さんはそう言って皆まで語らないが、イノシシストーブはただ可愛らしいだけでなく、その形状にもしっかりとした意味がある。まずはそのボディ。イノシシで言う胴体部分は鉄板で四方を固めたもの。シンプルな構造であることに加え、分厚い鉄板を使用しているので、鋳物のストーブでは煤が出て高温で燃えることから敬遠されている針葉樹も、気にすることなく使用できる。そして顔にあたる扉は開口部が広く、大きな薪をそのままくべる事を可能に。
目は空気を送る量の調整、牙は扉を開けた時のストッパーの役割を担っている。そして、このストーブが誕生するきっかけとなったディティールにして最大の特徴。それは顎にあたる部分。この少しの傾斜があることにより、炉内に灰が溜まり、囲炉裏のような熾火をつくることを可能にしている。熾火が作れさえすれば、太い木や乾かしていない生木も燃やすことができるのである。
そもそもなぜ浅見さんはストーブを作ったのか。その理由は自身が生まれ育った飯能の環境にあるという。「昔は石炭のストーブというのがあったんですが、秩父では石炭が取れなくて。その代わりに山に行けばいくらでも薪はありました。秩父には間伐材が沢山あって、捨てられる部分もあるんです。それを有効活用できればと思って、なんでも燃やせるこのストーブを作ったんです」
気さくな名物オジサンとチャーミングなストーブは地元の人々の心と体を今日も温めている。
【浅見鉄工】
address:飯能市長沢馬場69-1
tel:042-978-0613
営業時間:9:00~16:00
定休日:水曜日
http://www.asamitekkou.jp/
photo:Makoto Yamada text:Junpei Suzuki
HUNTvol.14の特集は「ニッポンのブランド」。このイノシシストーブの記事以外にも様々なブランドを取材しています!