メディアがパックラフトを取り上げる機会が増えていて、Hiker’s Depot にも問い合わせが多く寄せられるようになりました。日本でもアーリー・アダプターが楽しむ段階から一歩進んで、ここからさらに広がっていくだろうなと予感しています。
※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。
パックラフトのメーカーとして真っ先に思い浮かぶのは、やはりアラスカの旅の文化のなかでこの道具を広めてきた先駆者の Alpacka Raft でしょう。 同社は今も船の開発能力では群を抜いています。しかし、いかんせん家族経営の小さな会社なので、ユーザーが増えてくると Alpacka だけでは船の供給が間に合いません。
アウトドアは、モノをもって実際にフィールドに出るところから始まります。パックラフトは私たちを川に誘ってくれる道具ですが、Alpacka は規模的にそれほど大勢を連れていけるわけではない。かといって、家内製手工業から工場での大量生産に切り替えたら Alpacka の良さは失われてしまうようにも感じます。
そこで、Alpacka が踏み出せない領域にフォロワーとして進出したのが、Kokopelli なのだと考えられるでしょう。「先輩は開発に忙しいから、自分たちがより多くの人を連れていきます」という、頼もしいスタンスだと理解できそうです。シーン全体の傾向を踏まえてきちんと役割分担をした結果、より多くの人がパックラフトの楽しさに出会える機会をつくっている。そこに、Kokopelli の最も大きな存在意義があります。
先駆者により接近した船の構造
Hiker’s Depot では、昨年から Kokopelli のなかでもセルフベイラーがついている Nirvana というモデルを入荷しています。このモデルが大きくモデルチェンジして、より Alpacka のデザインに接近しました。具体的には、バウ(船首)とスターン(船尾)が尖って、特にスターン側が大きく後方にのびています。この形は Alpacka がここ3~4年にわたり試行錯誤してできあがった形です。
従来のパックラフトはかぎりなくゴムボートに近い形状で、要するにチューブの直径がバウ側でもスターン側でもそれほど変わりませんでした。しかし、スターン側の気室を太くすると、後方の浮力を上げて、直進性・安定性・前後のバランスを向上させられます。今期の Nirvana もこれをふまえてスターン側がぐっと太くなり、ほぼ Alpacka と同様のデザインに落ち着きました。そのぐらい、今年はオマージュっぷりが徹底しています。
さらに、シートの取付がバックル式からラダーロック式に変わりました。バックルでカチャンととめられるのもラクなのですが、部品が割れると使えなくなってしまいます。ラダーロックなら、パーツを減らして破損の可能性を格段に下げられます。ものを固定するタイアウトポイントがたくさんついていて、いろんなことができるのも魅力的です。最先端の Alpacka に接近しつつ、弱点だったバックルも改良して、着実に進化を遂げていると言えるでしょう。何よりも、家庭内手工業でつくられる Alpacka と比べて価格が安いので、パドルやPFD、ヘルメットなど関連ギアも同時購入したいビギナーにはうってつけでしょう。
メーカー同士の協働による道具の進化
興味深いことに、アメリカのメーカーは、優れたアイディアが生まれても特許をとって独占しようとしません。むしろ、いい発想がかたちになったら、それを共有してどんどんフォロワーを生んでいく。アウトドアの道具の大半は、このプロセスを踏んで発展してきました。そうでなければ、寝袋やドームテントも今のようには広まらなかったでしょう。それに、結局どんな道具でも源流をたどれば元ネタは見つかります。この形状も、ダッキーのような従来のインフレータブル・ボートにもみられるものを、Alpacka がパックラフトに持ち込んだにすぎないとも言えます。
ともあれ、こうしてイノベイターたる Alpacka がつくったパックラフトに、Kokopelli の経営者達はきっと乗っていたはずなんです。そこで「パックラフトすげえ楽しい!おれたちもやろうぜ!」と奮い立ったわけですね。NRS や AIR のように他のパドルスポーツもカバーする大手メーカーもパックラフトをつくっていますが、パックラフト専業メーカーとして Alpacka を追いかけて、この文化を広めることに専念しているのは Kokopelli だけです。艇の開発など様々な面でまだまだ Alpacka を追いかける立場にいることは否めませんが、Kokopelliの完成度もかなりのものです。特に素材の強度についての安心感は Alpacka に勝るとも劣りません。のんびりしたツーリングから、激しいホワイトウォーターまで、Kokopelli でも十二分に川を楽しめます。Alpacka と Kokopelli の違いは、自転車や自動車がメーカーやモデルによって乗り心地が違うのと同程度だと理解できるでしょう。
ULの歴史でも同様のことが起こっています。かつてはアメリカの小さなメーカーから直接輸入するしかなかったものが、次第にマスプロメーカーが似たような道具を扱うようになり、日本でも新しいメーカーが興り、多くの人が手にとれるようになった。こうした歴史は geared 読者のみなさんにとってもなじみ深いものだと思います。そうした影響の連鎖があったからこそ、今のハイキング・シーンの盛り上がりがある。道具の広がりを「パクリだ!」と揶揄するだけでは未来はひらけないので、さまざまな動きを「オマージュ」として未来につなげていきたいものですね。イノベーターだけではダメなんです!
こんな話をしていると自分なんかの世代はかつて Flipper’s Guitar が音楽文化の中でサンプリングやオマージュのおもしろさを高らかに主張してくれたことを思い出してしまいます。どんな場所であれ、先人に対するリスペクトのあるフォロワーが担う役割は欠かせないのです。
- 製品名
- Nirvana Self-Bailer
- メーカー
- Kokopelli
- 重量
- 約4,170g
- 価格
- ¥115,000(税別)
- 購入
- Hiker’s Depot