今年で3回目を迎えた国内のオルタナティブなギアメーカーを中心とした野外アウトドア見本市〈Off the Grid〉。前回、そこで見にした国内コテージメーカーの新製品を中心にアフターレポートをお届けしましたが、今回はその後編になります。前置きは抜きにして、どんどん紹介していきましょう。
Sheltの看板シェルターがアップデート
那須に拠点を置く Shelt といえば、長らく Locus Gear の一強状態が続く国内コテージメーカーにおけるテントシーンにおいて、遂に登場したテント/シェルターを中心に据えたメーカーとして個人的に注目しているのですが、その看板シェルター Storm のアップデート版 Storm S1.5 が展示されていました(冒頭に写真掲載)。
まず目につくアップデートとしては、これまで本体からガイラインを引いて立てていたポールがガイライン不要になり、周囲6ヶ所をペグダウンするだけで立てることが可能になっています。頭部と足元にも短いポールを仕込むことで形状がスクエアになり、居住性が向上した模様。左右対称だった全体の形状も頂上部がオフセットになりましたね。その頂上部分にもポールが入りましたが(それゆえポールのガイラインが不要になっている)Storm には2ヶ所あった入り口をひとつにしたせいか、重量は Storm で485gだったのが S1.5 では505gと、わずかな増加に留まっています。
素材にはソフトタイベックを使っていますが、別素材での供給も用意しているとのこと。軽量シェルターとはいえ、ちゃんとフロアのあるこういう形のものが欲しいと思っている人も多いのではないでしょうか。
アイデアが光る Minimalight のポーチ
昨年の〈Off the Grid〉で発見し、その後gearedでも『お財布戦争』と題して三つ折りタイプのハイカーウォレットを紹介させてもらった京都の Minimalight も新作を携えて参加していました。山と高原地図サイズの縦型のサコッシュ/ポーチも会場先行発売されていましたが、筆者が気になったのは試作品として展示していたこちら。
一見、それほど特徴のないウエストベルト用の外付けポーチに見えますが……
ウエストベルトを外したときにはウエストベルトに通したままショルダーハーネスに取り付けられる(ぶら下げる)ことが可能なのです! 実際、筆者もポケットがついてるウエストベルトがあまり好きでないのは、移動時などにベルトのバックルを外した状態で背負っていると荷物が入ったベルトがぶらぶらするのが煩わしいからなので、このアイデアには膝を打ちました。
トート+αの使い方ができる Beautiful Money のバッグ
Minimalight の隣には、こちらも昨年『お財布戦争』で紹介させたもらった Beautiful Money のブースがありました。直前に高熱に見舞われ会場で発売する予定だった新作のトートバッグの制作が間に合わなかったと残念がっていましたが、試作品として展示されていたそちらのトートがなかなか面白い仕上がりだったのでご紹介します。
「ビジネスシーンでもギリギリ使えるアウトドアギア」を標榜する Beautiful Money らしく、確かにビジネスシーンでも(ブラックなら)ギリギリ使えそうなトートバッグで、たとえば会社帰りにそのままランに行くシーンなどを想定して作ったとのこと。前面下部に配置されたポケットはペットボトルが入るサイズだったり、その上のストラップには脱いだ上着が挟めるようになっていたり、トートバッグとしてもなかなか気が利いているのですが、さらに……
手提げ用ストラップの位置を変えれば簡易的なバックパックにもなるのです。通勤で駅まで自転車を利用する人や、出先で資料などが増えて荷物が重くなった時なども便利なギミックではないでしょうか。
Minimalight、Beautiful Money と『お財布戦争』で取り上げたメーカーが続きましたので、次もそちらで取り上げたメーカーをご紹介させてください。
シンプルを極める Great Cossy Mountain
Great Cossy Mountain は日本のMYOG(ギア自作)シーンの草分けのひとり、大越智哉さん(上の写真に見切れてます)が昨年本格始動させたメーカーで、そのプロダクトの特徴はシンプルさを是とするULギアのなかでもさらにずば抜けたシンプルさ。写真中央と右側のバックパック POP HIKER One Day Distance などは、ほとんどただの袋です。
シンプルだということは作ることも比較的簡単だということで、Great Cossy Mountain は今年バックパックの自作キットを販売するとのこと。それが左側の緑色のバックパックなのですが、確かにこれなら Ray=Way の自作バックパックに挫折した筆者にも作れる……かな? ともあれ、ギア自作はULの根本であり本流なので、キット販売というアイデアには大いに賛同するし、発売された暁には筆者もぜひ作ってみたいと思います。
中国のメーカーが多数参加
今年の〈Off the Grid〉では、昨年以上に中国/香港から参加したメーカーのブースが充実していたことも印象的でした。正直、日本のメーカーに比べてバックパックやハイカーサコッシュにはそれほどのオリジナリティを感じられなかったのですが、かの地では軽量ギアによるキャンプが人気とのことで、そちら方面では面白いものがいくつもありました。
たとえば、野炊士多 というこのメーカー、チタン製の小型グリルや薪ストーブを販売していたのですが、とくにこんな薪ストーブ、見たことありますか? あまりに小さいので実用性の方は使ってみないとなんとも言えませんが、それでもこのサイズとたった305gという重量は、こんなの持って山でキャンプしたら楽しそうだと思わせてくれますよね。焼き鳥を焼くのに最適サイズなグリルもたった130gでした。
HeA Camper という香港のメーカーは、軽量な木製キャンプ用テーブルを作っていました。チタン製などの軽量テーブルは日本にも幾つかありましたが、木製はちょっと新鮮。複数を連結できるギミックもあり、フェスなどにも良さそうです。
2016年に設立されたばかりという中国の Outdoor Yogui はトレッキングポール専門メーカーで、カラーアルマイトの金属部品などを使った質感の高いルックが新鮮でした。複数のポールを連結できたり長さを調整できるオプションも用意されているなど、随所に意欲的なアイデアが見られ、個性的な製品の少ないトレッキングポールの世界においては、今後「化ける」可能性もあるかもしれないと思いました。
The Free Spirits Tents は中国有数のテント工場で18年以上の経験を積んだ王吉剛さんのメーカーで、複数のテントが展示されていたのですが、とくにこの TFS Dawn というシェルターは印象的でした。大きく開く開口部はフルオープンすれば新鮮な居住空間が生まれそうですし、オプションのテント片面のみのインナーテントも、ありそうでなかったアイデアなのでは。日本のメーカーとも欧米のメーカーとも微妙に違う設計思想が感じられるのも興味深いです。
道具が続いたので、アパレルで気になったものも紹介しましょう。ここからは日本のメーカーに戻ります。
他ではありえない Brown by 2-tacs のメリノウェア
以前gearedでも紹介した独特の活動を続けるスタイリスト、本間良二さん率いるBrown by 2-tacsからは近年力を入れているメリノウールのラインが多数展示されていましたが、なかでも筆者が気になったのはこれ。こんなメリノのTシャツ、見たことありません。これで山を歩いたらそれだけで楽しい気分になりそうですよね。
他にもワッフル織りのパーカなど他ではありえないメリノウェアが Brown by 2-tacs にはいくつもあるので、気になる方はぜひ池尻の直営店 The Fhont Shop を訪ねてみてください。
Deeper’s Wear の高機能な日常着
そしてもうひとつ、アパレル系で気になったのがこちら。「日常生活で服に求められる機能を追求した日常着」をコンセプトに服作りを行っている Deeper’s Wear です。
なかでも、名古屋のカリスマ的自転車ショップ Circles とのコラボレーションで生まれた一見オーセンティックに見えるこちらのシャツは、なんと薄い化繊のメッシュ生地。見るからに軽く、乾きも早そうで、自転車はもちろん、ハイキングやランにも良さそうです。同生地のショーツもあり、そちらもかなり気持ち良さそう。
Deeper’s Wear には他にも一見コットンチノに見えるのに実はストレッチして速乾性も高いポリエステル製のショーツ(写真左に見切れてます)やパンツ、撥水加工のスエットパーカ、汗ジミのできにくいBDシャツなど、素材にこだわった「高機能日常着」とも言えるユニークなウェアを多数作っています。一般的なアウトドアウェアやバイクウェア、スポーツウェアは趣味じゃないけどその機能性は欲しい、と思っている方は要注目のアパレルメーカーですよ。
今回のレポートも長くなってきましたので、最後はこの方の笑顔で締めていただきましょう。
Highland Designs からもレインケープが登場
この方、Hiker’s Depot の長谷川晋さんが着ているのは、Hiker’s Depot のオリジナルライン Highland Designs の GnuCape。レインケープが初期ULのアイコン的アイテムだったことは先日のgearedでの Hiker’s Depot土屋智哉さんの Sea to Summit Ultra Sil Nano Poncho紹介記事でも詳しく述べられた通りですが、実は Hiker’s Depot でも作っていたのです。
手が出ない絶妙な長さになっていたり、ばたつきを抑えるためのスナップボタンが付いていたり、後ろ身頃がなかにバックパックを背負っても出ないように長めに作られていたり、フードにはダイニーマXグリッドストップ生地のひさしが設けられていたり、シンプルながらさすが細部にも抜かりなし。長らくマーケットから消えていたレインケープですが、2017年は完全復活!なのでしょうか?
例によって長々と綴ってまいりましたが、これで筆者の〈Off the Grid 2017〉レポートは終わりです。2日目はあいにくの雨に見舞われ来場者も少なくなったようですが、それでも1日目の熱気はこのシーンのさらなる拡大を充分に感じさせてくれました。他にも気になるものや面白いものは多々あったのですが、筆者の力不足ですべてのものは紹介しきれなかったことをご了承ください。今頃になって「あれも写真撮っておけばよかった!」と思うものがいろいろありすぎる……。
3年目を迎え、ますます見逃せないイベントになってきた〈Off the Grid〉。来年はどんなメーカーや製品に出会えるのか、今から楽しみです。