久々に「ウルトラライトハイキング(UL)臭」がプンプン漂うアイテムの登場です。
スリーピングパッドにバックパックのフレームとしての役割を担わせたり、トレッキングポールをタープやシェルターのポールに使ったり、ひとつのアイテムにふたつ以上の役割を担わすことは、ウルトラライトハイキングの基本的な軽量化メソッドのひとつ。そしてレインポンチョがタープにもなる Integral Designs の Sill Poncho や、同じくレインポンチョがワンポールシェルターにもなる Six Moon Designs の Gatewood Cape など、ULの名品と呼ばれるアイテムにはひとつでふたつ以上の役割を持ったアイテムが多いのですが、ポンチョ、キルト(背面とフードのない寝袋)、ブランケットと3種類の機能をひとつで果たせるこの As Tucas の Sestrals Poncho も、その系譜に連なるアイテムと言えます。
化繊ダウンを使った「着れる寝袋」
重量700gの寝袋で眠るのと、400gの寝袋に300gのダウンジャケットを着て眠るのでは、同じ700gのインサーレンション重量とはいえ確実に700gの寝袋の方が暖かく眠れます。なので、軽量化のためどちらかのインサレーション量を重視するならば寝袋を、というのがセオリーと言われています。
ともあれ、キャンプに着いたらお酒を飲んだり、友人とおしゃべりする時間が欲しいと思うのも人情(筆者は特にそうしたい派です)。そんな時間に震えて過ごすのも嫌だ……。ならばせっかくの寝袋を就寝時にしか使わないのはもったいない。寝袋を体に巻きつけて過ごせばいいではないか、というのもULハイカーのテクニックのひとつなのですが、やはりキャンプ時はダウンジャケットの方が暖かく気楽に過ごせるのも事実。ならば……というわけで登場してきたのが、この「着れる寝袋」Sestrals Poncho というわけです。
もっとも、「着れる寝袋」は As Tucas 独自のアイデアではありません。Jacks ‘R’ Better というアメリカのコテージメーカーはポンチョとして着れるダウンキルトを昔から作り続けていますし、gearedでもお馴染み土屋智哉さん率いる Hiker’s Depot も Flap Wrap UDD というポンチョとして着れてハーフバッグ的な使い方もできるユニークなダウン製ブランケットを作っています。それらとこの Sestrals Poncho の最大の違いは、中綿にClimashieldという化繊ダウンを採用していること。 正直、重量比でのロフト感=暖かさは、化繊ダウンは天然ダウンに適いません。ですが、濡れてしまっても一定の暖かさを維持することやメンテナンスの容易さ(=気軽に洗濯できる)など化繊ダウンならではの長所もあり、その長所が生きてくる場面も多々あります。踏破に数ヶ月を要するロングディスタンストレイルではゼロデイ(休息日)に寝袋を気軽に洗濯できることは非常に助かるでしょうし、多雨多湿な季節や地域を旅するときも濡れに強いシンセティックダウンは非常に心強い存在です。同様に、冬山でスリーシーズン用の天然ダウンの寝袋をインナーに、濡れに強い化繊ダウンのキルトや寝袋をアウターとして二重に使うのも理に適った方法論でしょう。そんなわけで、筆者もかねがね化繊ダウンの寝袋がひとつ欲しいと思っていたのですが、それを抜きにしても、Sestrals Poncho にはかなりビビビと来てしまいました。
その理由としては、まず前述した通り、ポンチョとして着れること。インサレーションとしてダウンジャケットを持たずに良くなればそれだけで200~400g程度は軽量化できますし、就寝時にしか使用しない寝袋とキャンプ時にしか着用しないダウンジャケットをひとつにできたら装備としてもスマートです。また、キャンプ時に積極的に着用することを考えると、Jacks ‘R’ Better のように天然ダウンの「着れる寝袋」より化繊ダウンの Sestrals Poncho の方が手荒に使えて洗濯もしやすいことはアドバンテージになりますよね。そして何よりそのルックス。ゼロ年代の北米のULコテージメーカーのように機能性以外まったく考えてない無骨なデザインに逆に色気を感じてしまう筆者のような人間は、あまり多くはないかもしれませんが……。
3月頭の谷川岳をハイキングする予定があったので、As Tucas の日本でのディストリビューションを手がける アウトドアギアマニアックスさんにお借りしてテストをさせていただきました。その結果をレポートしたいと思います。
豊かなロフト感と暖かさ
まず、現物を手に取ってみて最初に感じたことは、ロフト感の良さ。正直、化繊ダウンは天然ダウンと比べるとロフト感がイマイチなのですが、その先入観を翻すリッチなロフト感がありました。お借りしたのは Cilmashield APEX167 を採用したMサイズ605gのモデルだったのですが、メーカー発表値としては0℃対応とのことで、同重量の天然ダウン寝袋と同程度の温度域に対応していることは特筆すべき点ではないでしょうか。天然ダウンにしろ、化繊ダウンによく使われる Primaloft にしろ、インサレーションの偏りを防ぐためにシェルに縫い目をつける必要があり、そこがコールドスポットになるのですが、Sestrals Poncho に採用された Climashield は素材自体に強度があるためシェルに縫い付ける必要がなく、それがロフト感の良さと暖かさに繋がっている気がしました。シェル素材に採用された12デニールの Schoeller-FTCファブリックの肌触りの良さも特筆すべきレベルで、肌が弱いのでナイロンやポリエステルが体に触れるのは苦手な筆者でも、サラサラとした肌触りは快適でした。
次にデザインを見ていきましょう。まず、Sestrals Poncho の大きな特徴として挙げられるのが、首元の扇状に弧を描いたカッティング。フードレスの寝袋やキルトではスナップボタンとドローコードなどで冷気を遮断するデザインが多いですが、それを Sestrals Poncho では扇状の首回りを首元にたぐり寄せるシンプルな方式を採用しています。Schoeller-FTCファブリックの肌触りと相まって、非常にリラックス感のある寝心地です。 足元はスナップボタンで留める方式で、スナップボタンを外してドローコードを全開すれば、ブランケットとしても使えます。背面のスナップボタンもキルトにくるまった状態からも着脱が容易で、シンプルながら使用にストレスの少ない考えられたデザインに感じました。3月初旬の谷川岳の標高1,800mあたりで Mont-Bell の天然ダウン寝袋 Alpine Down Hagger#3(重量約550g、快適使用温度0℃)のトップキルトとして使用し、山と道Alpha Anorak と Mont-Bell UL Down Pants を着用して寝ましたが、深夜~明け方には氷点下-10℃以下まで下がったはずですが、朝までぐっすりと眠ることができました。 また、この日は稜線上でキャンプしたのですが、幸運なことにほとんど風がなく、午後4時から夜の10時過ぎまでずっと外で宴会をしていました。そんな時はこのポンチョモードが大活躍。膝上辺りまですっぽり覆われるので、暖かさの安心感が違います。また、Sestrals Poncho ならではの秀逸な点だと思ったのが首を出す穴。立ち襟が付いていて顎下までしっかり包まれるので、安心感がより高いのです。風が吹くと露出した手が冷えることは冷えるのですが、寒ければポンチョの中に突っ込んでおけばOK。キルト時に足元と背面を開閉するためのスナップボタンがポンチョ時にも手を出すループになったり、体の前で止めれば腹部のインサレーションが倍になってより暖かく使えたりというシンプルながら秀逸なギミックもあるのですが、これは Jacks ‘R’ Better も先に採用しているアイデアなので、ここでは特筆しないでおきます。 長々と書き綴ってきてしまいました。まとめに入ります。まず、Sestrals Poncho の Climashield の化繊インサレーションはロフト感がよく、Schoeller-FTCファブリックの肌触りも抜群です。ブランケットとして使用すれば旅行や夏山などでも活用できるし、今回のレポートのように雪山でトップキルトとしても使えるので、季節やシチュエーションを問わず幅広く活用できます。キルトとはいえ超軽量とは言い難いですが、インサレーションジャケットを別途持たなくてもよいため、そのぶんの軽量化を図れます。何よりも持って行くものを減らせて装備をよりシンプルにできることは、ULハイカーにとっては大きな魅力ではないでしょうか。ひとつ問題を挙げるならば、ズバリ値段。正直、素材に使われた Climashield も Schoeller-FTCファブリックも高級素材のため、このいなたいルックスの割に少々、いやかなりお高いです。ですが、Sestrals Poncho が唯一無二の魅力を持つプロダクトであることは間違いありません。うう、欲しいなあ。奥さんに相談だ!
- 製品名
- Sestrals Poncho
- メーカー
- As Tucas
- 価格
- ¥59,000(税別)
- 国内取り扱い
- Outdoor Gear Maniacs