街でも「ULらしさ」を離さないバックパック Gossamer Gear Vagabond

街でも「ULらしさ」を離さないバックパック Gossamer Gear Vagabond
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ウルトラライトなバックパックのデザインには、今後それほど大きな変化は望めないかもしれません。

狭義の UL的な発想をつきつめると、荷物を背負うにはただの袋と肩ヒモがあればいい。そうしたシンプルさを極める軽量化は、結局のところレイウェイのようなバックパックにたどりつきます。日本国内で流通しているもブランドでいうと、レイウェイをオマージュした Trail Bum や、縫製箇所をいかに少なくしてバックパック強度を確保するかという構造をつきつめた FREELIGHT 、シンプルな造形が持つのんびりとした空気感を大事にする GREAT COSSY MOUNTAIN などが、そうした志向を引き継いでいます。

※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

しかし、ULはシンプルさを求める進化のつきあたりからスタートした文化ともいえるので、古典を継承することはできても新たな革新を起こすのは非常に困難です。だからでしょうか、2000年代前半からシーンを牽引してきた Ultralight Adventure Equipment Mountain Laurel Designs ZPacks などの老舗メーカーも、ここ数年は新製品を積極的には展開していません。そんな中、「何を付け足すのか?」というある意味では非UL的な視点で近年より大きな変化を遂げているのが、前身の GVP Gear のころから数えれば創業20年近く経っている古株の Gossamer Gear です。それは、シンプルさを何よりも重んじるUL原理主義者からすると、裏切りともとられかねない試みに見えます。

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その代表例ともいえるモデルがこの Vagabond です。本体容量は23Lで、ひと目で分かるようにタウンユースを意識したハンドルが最大の特色でしょう。自分は年齢的にもULがんこオヤジ世代に入ってきているので、「なんて余計なことを……」というのが初見時の正直な感想でした。UL原理主義者にとって、使いやすさは最優先事項ではありません。ただの袋でよかろう、ということです。

しかし、冷静になって中立的な視点から考えると、むしろこうした「付け足し」こそが2000年代後半以降のULバックパックの歴史を更新してきたのだといえます。たとえば、UL系バックパックの古典として位置づけられている GOLITE※ の JAM は、当初うすいパッドが入っているだけで背面はただのナイロン生地の、いかにもULバックパックらしいつくりでした。これが、Hiker’s Depot をオープンしたころの2008年頃の日本では、お客さんになかなか受け入れていただけなかったのです。

※最近 My Trail Company にブランド名を変更。

ところが、2009年のモデルチェンジで背面に3Dメッシュが配置されると、JAM を手に取ってもらえる機会が一気に増えました。そのときも自分はUL原理主義的な立場から「JAMにも余計なものが付いてしまった……もう終わった……これから何を売ればいいんだ……」と肩を落としたものです。しかし、わたしの心配をよそに、ULに興味を持っているけれどやや不安で踏み込めなかったハイカーにとっては、3Dメッシュが「これなら大丈夫だ!」と判断する決め手になったのです。日本のブランドでも同様です。山と道のバックパックも、軽さやシンプルさを極力損なわないようにしつつ、メッシュパッドを各所に配置して、より多くのユーザーの「使える!」「使いたい!」という思いをかき立てています。

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JAM や山と道のようなユーザー目線の「付け足し」がなされたULバックパックは、ウルトラライトのシーン全体を深く理解するきっかけになる、非常に大切な試みなのです。Vagabond の背面にも、やはり3Dメッシュのパッドがついています。そうすると、背中がムレにくくなるだけでなく、型崩れも防いでくれる。街で使うにあたっては、中にPCや書類を入れたり、電車で抱えたりしても、形がくたっとしないのはありがたいですよね。

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造形的にハンドルに目を取られがちですが、ジッパーによるトップローディングもなかなか斬新です。ジップロードを採用したUL系バックパックでは、吹き流しのフチにジッパーをつけて大きく開くようにし、ロールして固定するデザインが主流でした。それに対して、Vagabond は吹き流しがほとんどなく、ダイレクトにジッパーがついています。こうした構造は、ULバックパックにおいてあまり行われていませんでした。巾着型よりも開閉しやすく、もちろん街だけでなく山での荷物の出し入れにも便利です。

それでいて、3面ポケットがついたスタンダードなレイウェイのデザインは踏襲されており、UL的なアイデンティティを投影しやすいのもポイントです。ハイキングやトレイルランニングを楽しむ人たちは、自分のアイデンティティやライフスタイルの核に、アウトドアへの想いがある。だからこそ、普段から使う道具にもそうした思いを反映させたいはずです。それをファッションだと切り捨てるのは野暮でしょう。

自分は理屈で考えてようやくこうした流れに納得できたのですが、Hiker’s Depot の若いスタッフやお客さんたちはパッと見ただけで「これいいっすね」と素直にいえてしまうところがうらやましいです。「ULっぽいのに街でも山でも使えるし、いいじゃないですか」と。……まあたしかにそうなのですが、そんないいとこどりってちょっとズルくない?と思ってしまうのは、ULがんこオヤジの頭が固くなりはじめているせいなのでしょう(笑)。

Vagabondをきっかけに、もっとシンプルで軽いものを追求して Gossamer の創業者グレン・ヴァン・ペスキが大切にラインナップに残している Murmur を手にしてみたり、他社のモデルに目を向けたりするのもいいでしょう。VagabondはULらしさをきちんと表現しつつ、より深い歴史への入り口にもなる、興味深いバックパックなのです。

製品名
Vagabond
メーカー
Gossamer Gear
容量
23L
重量
510g
価格
¥16,800(税別)
購入
Hiker’s Depot
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