ランをもっと自由にするザックの力学革新、OMM PHANTOM 25CL

ランをもっと自由にするザックの力学革新、OMM PHANTOM 25CL
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OMM の PHANTOM 25CL は、2016年の秋から日本でも展開がはじまった大注目の新作バックパックです。その解放的な背負い心地は、「幻影(phantom)」という名が冠されるほど。いったいどんな工夫が、今までにない着用感を生んでいるのでしょうか。

※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

走れるザックの代表格、CLASSIC の利点と弱点

OMM のザックといえば、 CLASSIC シリーズが定番です。これは、もともと KARRIMOR を立ち上げた人物でもある OMM の創業者が、KARRIMOR時代に開発した KIMM というザックを継承してデザインしたもの。ネーミングも、ORIGINAL MOUNTAIN MARATHON の前身である、KARRIMOR INTERNATIONAL MOUNTAIN MARATHON のイニシャルに由来しています。2000年代前半に他メーカーから続々と発売されたアドベンチャーレース用ザックも CLASSIC のデザインを参照しており、アクティブな使用を意識したモデルにおける文字通りの「古典」として位置づけられるモデルといえます。

OMM CLASSIC 25

OMM CLASSIC 25

CLASSICの 最大の特徴は、しっかりとした厚みと硬さをもつショルダーハーネスにあります。これをぐっと絞ると、ショルダーハーネスとバックパック本体が上半身をサンドイッチするようにフィットします。ザックを肩で背負うというよりも、肩甲骨を中心とした背中の上面にまんべんなく荷重をかける感覚です。誰かをおぶった感じといえばわかりやすいかと思います。力学上、バックパックの重心は背負う人間の重心よりも上部、なおかつ体軸により近いことが理想なので、このポジションならば歩いても走ってもザックが安定しやすいのです。
実際に、現行のファストパッキング向けバックパックやUL系バックパックのほとんどが、この CLASSIC の背負い方を採用しています。まさに、20〜30L程度のバックパックを安定して背負うシステムの王道といえるでしょう。

しかし、この背負い方にも探せば弱点はあります。特に、走ることにフォーカスすると、「体幹部の筋力消費が比較的激しくなること」、「肩周りの動きの自由度が削がれてしまうこと」の二点が気になります。
たしかに理論上は重心が上にくればくるほど安定性は向上します。しかし、最も安定性が高いとされる、頭上に水瓶をのせた状態を思い浮かべてみれば分かるように、重心の高さに比例して動作時のブレは大きくなります。そのブレを押さえ込むためには、腹筋背筋に力を入れて体幹を維持しなければなりません。つまり、重心を上にもってくるほど体幹部の筋力を使う必要がある。そうすると、激しい動きでの長距離長時間行動では体幹のよれが生じることもあるのです。
さらに、ハーネスと本体で肩周り中心にバックパックを固定するので、腕ふりの自由度を妨げることも考えられます。OMMレースに出場するレーサーや、ファストパキングで長距離長時間を走りたい人など、行動中のラン比率を高く想定しているユーザーほど、こうした弱点に気がついていたかもしれません。

PHANTOM にみる新しいラン用ザックの力学

そうしたアクティブなOMMレーサーや、ファストパッキング志向ランナーの目線で開発されたのが、この PHANTOM だといえるでしょう。荷物を背負って激しく長時間走っても「体幹に疲労がたまりにくく」、なおかつ「上半身の可動域を確保する」ためにはどうしたらよいのか。この2点に絞って PHANTOM の革新性がどこにあるのかを考察してみます。

OMM PHANTOM 25CL

OMM PHANTOM 25CL

PHANTOM は、ウェストハーネスとショルダーハーネス下部の2本のストラップで、ザック下半分を背中の中央部に固定する方式を採用しています。ザック上半分とショルダーハーネスで体を挟み込み、背中の上部で固定する CLASSIC や他の UL系モデルとは、根本的に発想が異なるシステムです。PHANTOM のウェストハーネスには、従来ならショルダーハーネスが担っていた、体にザック本体をフィットさせる機能が与えられています。腰で荷重を受け止めるというよりも、腰骨直上あたりにザックの重心をのせるような感覚といえばいいでしょうか。

肩と腰のハーネスに注目。

肩と腰のハーネスに注目。

通常のバックパックの構造では、ショルダーハーネスのストラップはザック本体下部につながっています。なので、ショルダーハーネスをゆるめると ザックは後ろに傾いてしまい、重心がぶれて無指向に暴れてしまいます。しかし、PHANTOM の場合はショルダーハーネスのストラップがザック本体の中央部でもつながっているため、ザックの下半分全体を体にフィットさせられる。これにより、ザックの重心を肩甲骨周辺から腰のあたりに若干落とすことが可能です。その結果、激しい動きでもザックが振られにくくなり、体幹部への負担も軽減されるというわけです。

こうしてザックの下半分で体へのフィット感を維持できるのであれば、肩周りのザック上部に遊びができます。実際に、PHANTOM のショルダーハーネスは、ネイルペグ1本でザックを吊り下げているだけです。肩まわりをショルダーハーネスとザック本体ではさみこむ従来のザックとは違い、ショルダーハーネスがかなり自由に動くようになっています。ショルダーハーネスについているスタビライザーも伸び縮みするバンジーコードのみなので、激しく腕を振っても肩の動きに干渉しにくく、肩まわりの可動域を最大限活かせるのです。
また、チェストストラップもザックの下半分を密着感に貢献できるよう胸の下部でとめる仕組になっているため、胸部の圧迫感も軽減されています。

以上のように、PHANTOM はショルダーハーネスでザックを肩甲骨から肩の周囲にフィットさせる従来の発想を大胆にくつがえして、肩と胸まわりの解放感を高めているのです。

こうしてメリットを分析すると、この方式こそベストなのかと思う向きもあるかもしれませんが、残念ながら PHANTOM も決して万能ではありません。ランを中心としたアクティブな行動を前提にして特殊な設計をしたぶん、従来のUL系ザックよりも背負う際の約束事や手順が複雑化しているのも事実です。気楽に使えるオールラウンドなザックというわけではなく、そのスペックを充分に発揮するためには使う側の意識が重要になります。
たとえば、通常のザックのように肩で背負ってしまうと、ショルダーハーネスの固定が弱いため、ストレス過多になってしまいます。また、激しい腕振りや呼吸がしやすいように肩まわりの拘束をゆるくしたぶん、お腹から腰にかけての密着感は高くなっています。もしかしたら、それをわずらわしく感じる人もいるかもしれません。

OMM のラインナップには今も CLASSIC が残っています。このことからも、二者択一を迫られるのではなく、それぞれ異なる強みを持つ新たな選択肢が生まれたのだと理解していただきたいです。定番の CLASSIC があるからこそ、最新の進化形である PHANTOM の個性が光るのです。より自由に走るための野心的な発想を具体化した、OMMレースを開発背景にもつメーカーにしか実現できない、唯一無二の革新的なモデルとして捉えてみてください。ぜひ、そのメリットが活きるアクティビティを吟味して使いこなしてほしいです。

製品名
PHANTOM 25CL
メーカー
OMM
価格
¥28,500(税別)
購入
Hiker’s Depot ほか
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